2014年10月26日日曜日

デジタルカメラで撮るモノクローム

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最近はよくモノクローム写真のことを考える。モノクローム写真といっても、デジタルカメラで撮るモノクローム写真のことで、減塩フィルムで撮影した本物のモノクローム写真のことではない。

長い間ずっと、デジタルカメラで撮影されたモノクローム写真は銀塩フィルムで撮影された本物のモノクローム写真とはぜんぜん違うものだとの印象を持ち続けていた。そしてそれはもはや殆ど決定的になり、デジタルカメラで撮影するモノクローム写真と銀塩フィルムで撮影するモノクローム写真とは似て非なるものであって、その表現の本質は銀塩フィルムにあり、デジタルカメラで撮影されたモノクローム写真はフェイクでしかない、と信じるようになったのである。

僕が普段使っているシグマのデジタルカメラのイメージセンサーは受光素子が光線に対して垂直に配置されたFOVEONと名付けられたセンサーで、これは一般的に使われるベイヤー型よりもモノクロームの表現力が高い。RGBが平面的に配されるベイヤー型は、構造的にモノクロームをRGBを合成する演算で作ることになる。

一方のFOVEONはRGBが一列に重なっているので、光の強弱によってのみ受光素子を使うことができる。これは銀塩フィルムと一緒の理屈である。ライカにはMモノクロームというカメラがあって、これに使われているセンサーは本来はベイヤー型なのだが、モノクロームに特化するように改造されていて、RGBのセンサーすべてで光の強弱のみを拾うようにしてある。結果としてFOVEONがやっていることと同じこととなる。

モノクローム表現に強いといわれるFOVEONでさえ、銀塩フィルムで撮影されたモノクロームと比べるとフェイク感を感じてしまうのである。もちろん、銀塩フィルムを使ってもいい加減に撮影され適当に現像されたモノクローム写真などは、いくらフェイク感があろうとデジタルカメラで撮影されたモノクローム写真の階調の方がずっと整っている。銀塩フィルムのモノクロームというものは、撮影や現像などで手を抜いて出来るものではないのである。

自分のような世代のカメラオタクにとって、モノクローム写真というものは表現を楽しむというだけではなく、道を追求するようなところがある。ISO/ASA感度を幾らに設定するべきかというところから、光線状態によって現像温度や現像時間を微妙にコントロールしたりすることを考えてしまう。そしてプリントするときには、焼きこみや覆い焼きを何度も試して、試行錯誤の結果一枚のプリントが出来上がるのである。

上手く出来たモノクロームの銀塩プリントというものは、黒から白に至るまでのレンジが広く、黒は自然界に存在しないほどの漆黒であり、白は全ての色彩を寄せ付けない穢れを知らぬ純白である。写真家はその両極の間にあるグレー領域を思う存分使って写真を作るのである。

モノクロームのフィルムや印画紙などの感材の特徴を見るのに適するものは、各メーカーから発表されている特性曲線というものである。これを見るとその感材の特徴がだいたい分かるものである。特に大事なのはいわゆる「アシ」の部分で、特性曲線が立ち上がっていく部分である。この部分が一定の角度で滑らかなカーブを描く感材は暗部の表現に癖がない。急角度のものは暗部の階調表現が上手く出来ない。

僕などが青年時代に使っていた富士フィルムのネオパンSSなどといったフィルムは暗部の階調表現が苦手なフィルムで、特性曲線を見るとこの部分に急な角度が付いていた。一方のコダックのプラスXなどは比較的綺麗なカーブで、両者を撮り比べるとネオパンSSの暗部表現は明るい部分から急に暗いところへと落ちてしまい、全体にドロンとした印象になってしまっていたものである。富士フィルムの名誉のために付け加えると、現在の富士フィルムの製品にはそのようなものはなく、まじめに改良が加えられた素晴らしいフィルムばかりである。

実はデジタルカメラで撮影されたモノクローム写真についての大雑把な印象は、こうした昔のネオパンSSの印象に近いものを感じているのである。要するに暗部の表現力というものである。中間グレーではなく暗部のグレーに弱いように感じるのである。

僕はシグマのFOVEONを搭載したカメラでRAW撮影しているので、それ以外のデジタルカメラを使っている人々には何ら参考にはならないだろうけれど、自分のモノクロ写真のRAW現像方法のキモを一応書いておこう。

シグマのFOVEONで撮影されたRAWファイルはシグマ社から出ている純正のSigma Photo Proというソフトウェアでしか展開できない。Light RoomもSilky Pixも残念ながら対応していないのである。このソフトでモノクローム画像を作る時は、まずタブでモノクローム現像の画面に切り替える。これだけでRGBモードを排した純粋なモノクローム画像となる。作業ツールにX3 Fill Lightと呼ばれるスライドバーがあり、これはハイライト値を保ったまま暗部を調整する機能である。このスライドバーをプラス方向にあげる。すると暗部が持ち上がる。ついでに画面全体も明るくなるので、露出のスライドバーをマイナス側に動かして調節する。この作業を、最もバランスの良いと思われる階調を得られるまで繰り返すのである。

たったこれだけのことで、デジタルカメラのモノクローム画像の最大の弱点である暗部の表現をコントロールすることが出来る。もちろん自分もまだまだ試行錯誤の途中であり、これはまともなモノクローム画像を制作するための第一歩にすぎない。まだまだ満足いく結果に辿り着けてはいないけれど、何となく手がかりを得たような感触を得ている。

うん、久し振りにブログを更新してみたけれど、真面目な文章だ。いいぞ(笑)。


撮影地:奈良県奈良市
Sigma DP2 Merrill
Sigma Photo Pro



2 件のコメント:

  1. ご無沙汰しておりました。公私ともに忙しくなって来ましてお邪魔出来ていませんでした。
    こちらはもうすぐ雨季が終わりです。そんな季節だからこそ、モノクロがいいのかな・・・と拝見しながら考えていました。
    モノクロの重厚感というのはスーパー素人の自分でも何となく感じます。いろんな方の作品を拝見していく中でモノクロで上手く表現してみたいなぁ~とつくづく思っていますが、なかなか。
    現在、SPPとSilky Pixを使う機会があるのですが、最初に使ったのがSPPだったということを割り引いても個人的にはSPPは便利で使いやすいと思いますね。特にFill light機能は楽しいです。他の機能も全体的に直感で使えますし、贅肉がない感じです。露出をマイナス2.0、Fill Lightを+2.0にすると絵画調になるところも面白いです。トーンカーブとかがあると逆にカーブの形に意識が行ってしまって、肝心の出来栄えがすっ飛んだりしますので、個人的には不要です(笑)
    とはいえ、その日、その時の気分で出来栄えが変わってくるところもまた現像の楽しさなのかな、と出来上がった下手糞な絵を見て自己満足に陥る今日この頃で御座います。

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    1. コメントをありがとうございます。

      フィルムで撮影する頃はフィルムを装填する時点でモノクロかカラーか決めなければなりませんでしたが、デジタルカメラの時代になると撮影後にどちらかに決めてしまえる点が便利なようでもあり不便なようでもある気がします。カラーでは見栄えのした画が、モノクロームに変換するとまったく駄目な画に見える時があり、つくづく難しいものだと思います。

      SPPのX3 Fill Lightはあまり強くかけ過ぎるとHDR画像のように不自然な画になってしまいますね。ここいらも注意が必要なところで、やはり難しいものだと感じます。モノクロームはフィルム時代も暗室であれこれと考えなければならなかったのですが、デジタルになっても考えるという作業は一緒です。難しさはありますが、上手く出来た時に得られる満足感もありますのでどんどんやってみようと思っております。

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